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東京高等裁判所 昭和51年(行コ)91号 判決 1979年3月28日

控訴人 佐々木きく

被控訴人 島田労働基準監督署長

代理人 成田信子 高橋廣 ほか二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人に対し昭和四八年二月一七日付けをもつてした労働者災害補償保険法による遺族補償給付を支給しない旨の処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述並びに証拠の提出、援用及び認否は、次に掲げるほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。ただし、判決書三丁裏四行目括弧書「以下」の下に「符号を加える。

一  控訴代理人は、「本件の出来事は、これを全体として見れば、酒気を残したまま出勤してきた守衛亡佐々木鉞治の就労を巡る守衛同士のトラブルである。すなわち、相手方の大野謹には、かねて守衛長から飲酒者は就労させないとの指示を受けていたので、鉞治を一度守衛所から排除したところ、相勤の青木吉雄が仲裁に入り、結局鉞治が勤務するということでいつたん解決したかに見えたのであるが、再度大野が就労中の鉞治を呼び出し、就労の可否を巡つて議論している間に鉞治が転倒したというものである。したがつて、鉞治の被つた本件災害は、正に業務遂行中に生じたものであり、酒気を帯びている同人の就労を認めるかどうかの業務上のトラブルに起因するものであつて、業務に起因することが明らかであるから、鉞治の死は、業務上の事由による死亡と解すべきである。」と陳述した。

二  被控訴代理人は、控訴人の右主張を争い、「鉞治と大野との守衛所外でのトラブルは、鉞治の就労の可否を巡つてされたのではなく、業務と直接関係のない個人的な喧嘩である。」と述べた。

三  <証拠略>

理由

当裁判所もまた、控訴人の本訴請求を失当と判断する。その理由は、原判決の説示のとおりであるから、これを引用する。ただし、判決書一二丁裏八行目「乙第七」を「乙第一、第七」改める。当審証人大野謹二の証言中には右引用の原判決の説示中の事実認定に一部抵触する部分があるけれども、これは原判決挙示の各証拠に照らし信用することができない。また、控訴人は、亡佐々木鉞治の死亡につき、酒気を帯びている同人の就労を認めるかどうかという業務上のトラブルが原因となつたことを理由に、同人の死は業務に起因することが明らかである旨主張する。しかしながら、原判決認定の事実関係に徴するに、本件の出来事のそもそもの原因は、鉞治が交代のため守衛室に入つてきてしばらくしてからの口論であり、その口論が酒気を帯びている鉞治の就労の可否という業務に関する事柄を巡るものであることは確かであるけれども、同じく右事実関係からすると、鉞治は、その口論の際にはまだ勤務に就いていなかつたものであるところ、右口論中馬鹿野郎と言つたため、相手の大野謹二から約一〇分後に守衛室外に呼び出され、原判決認定のもみ合い(その際の言葉のやりとりは定かでない。)となり、その結果転倒して後頭部を舗装面に強打しこれが致命傷となつて鉞治の死を招いたことが認められるから、かかる死亡事故をもつて業務に起因するものとすることは到底不可能である。したがつて、控訴人の右主張は、採用することができない。

よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であるから、行訴法七条及び民訴法三八四条、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡松行雄 田中永司 賀集唱)

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